耳切り坊主の伝説

沖縄には伝説や口承、民話が沢山あって、この“耳切り坊主“の話もその類の話になります。
沖縄風に言うと“みみちりぼーじ“って言い方をしますが、沖縄では割と有名な話で、内容としては「悪いお坊さんが耳を切られて殺される」って言うお話です。
・・・そう、怖い話なんです。

そんな怖〜い話の耳切り坊主が、沖縄では童謡や子守唄になってたりします。

耳切り坊主って言うと、大体の人は“子守唄“のイメージが強くてあまりどんなお話なのかっていうのはわかんないかもしれません。
なので、早速耳切り坊主の話を詳しく紹介しましょう。

耳切り坊主



まだ沖縄が琉球王国と呼ばれていた18世紀頃。
現在の那覇市若狭にあった護道院という隠居寺に、盛海上人という住職がいました。
隠居寺というのは、歳を重ねた住職が老後を過ごすためのお寺です。

しかし、この盛海上人は歳を重ねているとは思えないほど、筋骨隆々で色も浅黒かった事から“黒金座主(くろがにざあし)“と呼ばれていたそうです。
その見た目から荒法師なのかと思いきや、読経の声が素晴らしく説法も上手だった為、人々からはとても慕われ、お寺にはいつも沢山の人が押しかけたと言います。

ただ、そんな黒金座主に妙な噂が流れます。

村人A<br>
村人A

黒金座主は謀反を企ててるらしいよ

村人B
村人B

真言宗を極めてるから、怪しい妖術を使うらしいよ

などなど。

その噂を聞きつけた王様は、部下に黒金座主を見張らせます。

ある日、村でも美人で有名な良家の娘が寺に入っていきます。
すると、急に暗雲が立ち込め寺の敷地内だけに雨が降り出します。
敷地の外には一切降らず、本当にお寺の敷地内にだけ降る雨を見た王さまの部下は不審がります。
しばらくして雨が止んだと同時に、娘がお寺から出てきました。
娘は、お寺に入っていった時と特に変わった様子が無いように見えましたが、よく見ると髪が乱れていました。

その様子を見た部下は

部下
部下

王様ー!!やはり黒金座主は妖術を使い女をたぶらかしています!!

と、報告。

報告を聞いた王様は、すぐさま弟の北谷王子に黒金座主の退治を命令。

北谷王子は黒金座主に手紙を書きます。

王子
王子

君は“碁“が強いと聞いたんだが、ひとつ私の相手になってくれないか?



王子からのいきなりの手紙を黒金座主は不審に思いつつもこれを承諾。
黒金座主は早速北谷王子の屋敷、北谷御殿を訪ねます。

そこで雑談を交わしつつ対局が始まりますが、普通にやったんじゃ面白くない。“何か賭けよう“と提案。

黒金座主
黒金座主

私が勝ったら、王子のカタカシラを切らしてください。

カタカシラとは、男子が成人になると結う髪型の事で、武士で言うチョンマゲみたいなもので、これを切られるという事はすごく屈辱的な事です。
この提案に北谷王子は内心ムッとしますが、そこは堪えて

王子
王子

ほう、たいした自信だな。なら、私が勝ったらどうする?お主は切る髪の毛がないが?


黒金座主
黒金座主

私が負けたら、この耳を切り落としましょう


王子
王子

面白い事を言う。ではその条件で!


そう言うと、今までの和やかな雰囲気から一転、場には重苦しい空気が流れ一手一手に緊張が走ります。
対局も終盤に差し掛かると、形勢が不利の黒金座主はこのままいくと負ける事を確信します。
その途端、盤をひっくり返し逃げようと立ち上がります。
その途端、北谷王子は目にも止まらなぬ速さで刀を抜き黒金座主の耳を切り落とします。
片方の耳を落とされた黒金座主は、構わずそのまま逃げようと北谷王子に背を向けます。
その途端、北谷王子は返す刀でもう一方の耳を切り落とします。
この時、太刀筋は耳を切り落とし顎にまで達しており、その傷が致命傷になり黒金座主は命を落とします。

黒金座主
黒金座主

おのれ、北谷王子め・・。貴様の一族を呪ってやる!・・・ガクッ。


それから、北谷王子の屋敷では後継である男の子が生まれると、すぐに原因不明で死んでしまうという事が続きます。すると

黒金座主の呪いでは・・。

北谷王子の屋敷の角に、黒金座主の亡霊を見たって人がいるらしいよ

など人々が口々に噂します。
そんな中、北谷王子の屋敷にまた子供が生まれます。
子供を取り上げた産婆が「※大女(うふいなぐ)じゃー!」と叫びます。
※元気な女の子という意味

その子は大事に大事に育てられ、元服の際にはみんなを集め、実は男の子だった事を公表。

そう、北谷王子は黒金座主の呪いを退ける為、わざと女の子が生まれた様に見せかけたのです。

それから、北谷王子は黒金座主を丁寧に供養したので、屋敷の角に立つ亡霊の話はいつの間にか聞かなくなりました。

各地域に伝わる耳切り坊主

この耳切り坊主のお話は、地域や場所によって少し内容が違ってます。
例えば“碁を打ってる最中に北谷王子に妖術をかけた“とか、“逃げ出そうとした時に妖術をかけた“とか、他にも“黒金座主の耳を切り落とした後、鼻も落とされ最後に命を落とされた“など様々です。


ただ、どの話でも共通してるのが“黒金座主は色んな女の人に手を出す悪坊主だった“ってとこ(笑)

なので、大筋でまとめると

妖術を使い色んな女に手を出していた悪坊主が、耳を切り落とされて退治された

っていうお話ですね。

色んなモノに派生する耳切り坊主

この耳切り坊主のお話は色んなモノに派生しています。

芝居や怪談、子守唄など。

沖縄の人には耳切り坊主と言えば唄のイメージの方が強いかと思います。

大村御殿(うふむらうどぅん)ぬ角なかい 耳切り坊主ぬ立っちょんど
幾人幾人(いくたいいくたい)立っちょがや 三人四人(みっちゃいゆっちゃい)立っちょんど
鎌(イラナ)ん小刀(シーグ)ん持っちょんど
泣ちゅる童 耳ぐすぐす
ヘイヨー ヘイヨー 泣かんど
ヘイヨー ヘイヨー 泣かんど


これが童唄の歌詞ですが、大村御殿の角に耳切り坊主が三人四人立ってるよ〜。
鎌と小刀持って立ってるよ〜。
泣いてる子供は耳をぐすぐすされるよ〜。
って、意味です。

怖っ!!

これで子供泣き止むのか・・。
昔の人はたくましいな。

耳切り坊主の元


この耳切り坊主のお話は実際にあった話と言われてて、琉球の歴史書に記載されてるという事ですが、歴史書には「王命で斬殺」としか記述されていません。
てことは、“黒金座主が女の人に手を出してた“とか、各地に伝わる話で共通する“悪い坊主“ってイメージは勝者の歴史の可能性もありますね。

一説では、黒金座主は反薩摩派だった為、謀反を起こされて薩摩側との関係が悪化する事を恐れた王府側が退治したって説もありますが、どちらにせよ真実を解明するにはあまりにも昔過ぎて難しいかもしれません。

今も御殿の角に立つ 耳切り坊主

さて、このお話が真実なのかどうなのかを解明するのは難しいとして、ただ何かしらがあったんじゃない?って思わせる様なお話しを聞いたので紹介します。

首里城のほとりにある龍潭。

龍潭

この龍潭の道向かいに中城御殿跡があります。

中城御殿跡

現在は発掘調査が進められているこの場所なんですが、サーダカ生まれの後輩芸人が言うには、塀の角辺りに坊主の霊が立ってるって話です。
この坊主の霊は、時折小道に入った塀沿いを行ったり来たりして歩いてるとのことで、「これが耳切り坊主じゃない?」って言われました。
いや、じゃない?って聞かれても俺には見えないし(笑)

ただこの場所、“中城御殿跡“なんで北谷王子の住む北谷御殿とは違うんだけどなぁなんて思いながら、琉球の古地図を見ると、現在中城御殿跡になってるこの場所に、しっかりと“北谷御殿“と載ってるではありませんか!
       (参考文献  県営首里城公園 中城御殿発掘調査報告書(I) 沖縄県立埋蔵文化センター)

という事は、見える人には見える、この角に立ってるという坊主は耳切り坊主・・・なのかもしれない。

後輩芸人曰く、あまり良くなさそうだから近づかない方が良いよ〜って言ってたんで、現場に行ったりするのは自己責任でお願いします。

おわり


さて、子守唄でもあり伝説でもある耳切り坊主のお話。子守唄にするにはあまりにも怖い内容でしたが、よかったら皆さんお子さんを寝かしつける時に、このお話を聞かせた後に唄ってみてはいかがでしょうか?
もちろん、何が起きても自己責任でお願いします(笑)

因みに、僕はこの場所をほぼ毎日通るんですが、この話を聞いてからはここを通る時意識してこの場所を見ないように反対側の龍潭側を見ながら車を運転してたんですが、ある日前の車にぶつかりそうになりました。
これはきっと、耳切り坊主の呪い・・・ではなく、完全に僕の前方不注意です。(ぶつかってはない)

なので、皆さんは決して真似しないように。

かいたひと
ゴリラ勇介

沖縄で「ゴリラコーポレーション」というコンビで芸人をやっています。
普段は漫才やコント、新聞での執筆活動、ラジオで喋るのも聴くのも好きで、ラジオ沖縄では「people wave α」という番組もやりつつ、タイムテーブルでラジオコンシェルジュを執筆しています。RBCiラジオでも「只今いきものんちゅ」という番組をやっています。

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